〜目的の沢〜
古くは1180年、平氏討伐の「治承の乱」に敗れた不遇の皇子、高倉宮逃亡伝説が残る峠が歴史的に一躍脚光を浴びたのは、戊辰戦争で河井継之助が深傷を負いながら敗走したという記録ではなかろうか?
越後と南会津の間に立ちはだかるこの峠道は、実際には30kmくらいなのだろうが、その険しさゆえに10倍もの距離に感じることから「八十里越峠」と呼ばれている。
けもの道ながらもこの八十里越を利用して、南会津地域では、海産物や食塩、鉄製品などの生活用品を越後から移入し、南会津からは繊維原料、林産物、労働力などを越後へ送り出してたそうです。
しかし大正に入って現在の磐越西線が開通し、鉄道輸送が盛んになると、この不便なけもの道は一気に衰退していき、このまま廃道かと思われましたが、戦後まもなく日本中の道路網建設が叫ばれ始め、日本海と太平洋を結ぶ幹線道路の一つとしてこのけもの道が見つめ直され、昭和44年に閣議決定、昭和61年にようやく「車が通れる道路」としての建設がスタートしました。
当時の地元の方が工事業者に「完成までに何年かかる?」と聞いたところ「10年かかる」と言われたそうですが、10年経っても一向に工事が終わらないので「あと何年かかる?」と聞くと「あと10年かかる」と言われたという話は、もはや笑い話です。
それからさらに月日は流れ、着工からすでに39年が経過し、最新の予定では2026年開通という事ですが、おそらく「あと10年はかかる」というのが地元の見立てです(笑)。
今回はそんな山深い場所にある、一般の人はなかなか立ち入れない秘境沢での釣行です。
〜装備〜
さて、目指す沢は深山幽谷な場所だけに装備も怠れません。
まずは何といっても熊対策です。もともと警戒心が強い熊に対しては、予め人間の存在を知らせるために爆竹や鈴を鳴らしたりすることで鉢合わせを回避できます。鈴は腰に2個とバックパックにも2個という熊以上に警戒心が強い自分……。
さらに対獣スプレーは西部劇のガンマンさながらで、ホルスターから取り出し→安全ピンを外して噴射という一連の動きを事前に何度シミュレーションしたことか……。
続いてはスマホです。山奥で圏外なのになんで必要なのかというと、キャリア電波は届きませんがGPSは追跡してくれるからです。最近はGPSアプリも充実しており、足どりのログが残せたり、例えば「ここに滝」みたいなマーキングができたり、現在地や方位がわかるので、変な話 遭難も回避できたりします。「ヤマップ」や「ヤマレコ」など有名どころのGPSアプリに人気が集まるなか、個人で開発し、2014年公開と歴史もある「ジオグラフィカ」というアプリはなんと無料なのでオススメです。
そんな訳でモバイルバッテリーも必須となります。こちらのタイプはフル充電1回分が驚くほど早いのでオススメです。
あとは万が一飲料水が無くなった時のために川の水を濾過して飲める携帯浄水器。なんとフィルター交換なしで5000リットル浄化可能という優れもの。
バックパックにはロープや雨具、食料など。ロッドは万が一に備えて2本以上は必ず持っていきます。
たかが魚釣りに家内からは「遭難する気満々だね」と揶揄されてます。
〜出発〜
仕事が終わる19:00を待って、今回 同行していただく「N1号」さん宅へお迎えに。
いつもは関越自動車道で新潟県から福島入りするのですが、途中の峠道にかかる橋が雪崩で崩落し、工事のため通行止め。したがって今回は東北自動車道を北上し、栃木経由で4時間半かけて目的地を目指します。
西那須野塩原I.C.で降りて西に向かうのですが、ここで注意が必要です。田舎あるあるで、この先は深夜帯で営業しているガソリンスタンドはありません。万が一にもガス欠という惨めな思いをしないようお気をつけください。I.C.を降りて逆方向にしばらく行くと22:00くらいまでやってるスタンドがありますが、周辺のほとんどは19:00で終了です。
日光、南会津と通過し、深夜23:30ようやく到着です。
上下合わせても1日6本しか電車が来ない只見線の只見駅。
ようこそ只見町へ!私の父がこよなく愛した第二の故郷です。
〜只見町そして入渓〜
3年前の冬に父が亡くなりました。
父が30年以上前から足繁く通ったこの只見町は、昭和30年代に田子倉ダムの建設工事に沸き、ダム建設作業員や、その方達を支える飲食店などで賑わいを見せましたが、ダム完成とともに人口も減り、すっかり田舎町としての落ち着きを取り戻しています。現在ではパチンコ屋ですら潰れてしまう街に、かつて映画館やボーリング場があったなんてとても信じられません。
もともと釣り好きだった父は、初めはほんの偶然で訪れた只見町に一瞬で魅了され、1軒の民宿を定宿拠点に「八十里越峠」周辺の沢を幾度となく、それもほとんど単独で訪れてきました。
徒歩で片道2時間半、宿から沢までの道のりは遠く、しかも車両通行止めの工事区間なので、早朝の工事開始前を狙い、初めの頃は宿から歩きで、そのうち自転車を持ち込むようになり、やがて宿からバイクを借り、宿の人と家族のような間柄になる頃には車で送り迎えをしてもらえるようにまでなりました。そうそう、地元の方たちは山菜取りなどで山に入るため許可証を持っており、車両通行OKなのです。僕も今回同伴のN1号さんも初期の頃から父のお供をしてますが、民宿とのコネクションを築き上げてくれたのは間違いなく父でした。
そんな父が亡くなる前に「骨をまいてほしい」とまで言って愛したのが今回入渓する沢です。
狭山市を出て只見町に着いたのが23:30。そこから少し仮眠を取り、支度を整え出発です。今回、行きは宿の人に送ってもらいますが、帰りは自転車です。なのでN1号さんと自転車を荷台に積んでいきます。
雪崩避けの「スノーシェッド」を通過、訪れるたびに建設が進んでいる様子が伺えます。
いつも思うのですが開通前の道を通行できるなんて貴重な体験です。
入渓前、「これが最期になるかもしれないから」と宿の人に脅されて記念撮影(笑)
GPSアプリ「ジオグラフィカ」を起動し、スマホ自体は機内モードにします。これは圏外なのにスマホが通信を試みようとして余計なバッテリーを消費してしまうのを防ぐためです。
さぁいざ入渓!もういかにも熊が出てきそうな藪エリアです(汗)
ブナの森を歩いて進み……。
ロープで急斜面を降ります。
川の水はとても少なく、川底に沈んでいたであろう岩もむき出し。しかし逆にポイントも絞りやすいとポジティブに捉えて釣り上がります。
幸いな事にこの日は活性も高く、ヒットは連発!
美しい天然のイワナです。
普段 釣りをしててもあまり魚を持ち帰らないのですが、只見の天然イワナに関しては話は別です。食べる分だけ「4匹」と決めてきました。でもここでさらに自身に厳しい縛りを課します。
「25cmを超し30cmに満たない個体のみをキャッチできる」
これはイワナを乱獲する事による個体減少を避け、魚が豊かな川を維持したいという個人的な想いと、いつか30cmオーバーの個体となって遊んで欲しいという願いを込めての事です。
30cmオーバーの個体をリリースするのは単に味が劣るということと、このサイズまで生きてきた、いわば長寿お祝いです。
無論、ひとりよがりなのは分かってます。他人に強制するつもりも毛頭ありません。ただこんな考えの釣り人が1人でも多くなれば、渓流はもっと長く楽しく釣りを楽しめる場所と勝手に思っているだけです。
そんなわけで24.5cmのこの子はリリースです。
さらに上へと進んでいくと7月中旬にも関わらず残雪に巡り会えました。残雪の下にはなんとゼンマイも!日本有数の豪雪地域でもある只見ならではの光景です。
この日、サイズは20cm台の前半が多くパッとしませんでしたがヒットは数え切れず・・・
水深も浅く、透明度も高いので、ルアーを追尾するイワナの姿がよく見えて、釣り自体はとても楽しかったですね。
この日の最高は26cm 唯一のお持ち帰りです(笑)
このように今は極めて入渓者が少ない八十里越一帯も、道路が開通すると荒らされ放題になると予想されるので、自然のためには開通が遅れることを望む一方で、交通インフラ的には急務であるというジレンマに亡くなった父はいつも思いを馳せていました(よそ者なのに・笑)
それでは今回はこの辺で。
また次回お会いしましょう。
※管理人より
本記事の初公開は2025年7月29日です。
また、動画、あります!
執筆者のプロフィール

- 本サイトの管理人です。34はゲーム「クラッシュ・オブ・クラン」のアカウント名です。いや、名前なんかは何でもよいのです。大抵のゲームは、このアカウント名にしています。本職は紙媒体の編集&ライターです。
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